プレスリリース 新聞・雑誌

プレスリリース「平成14年3月号 月刊 地球環境」

亀井製陶
「焼き物の町」で廃棄物を使った無焼成レンガを商品化

陶磁器製モザイクタイル生産高日本一を誇る岐阜県笠原町。多治見市と瀬戸市に隣接したこの焼き物の町で環境ビジネスを展開しているのが亀井製陶(亀井宏明社長)だ。これまで培ってきた技術を生かし、廃棄物を原料に、しかも特殊固化技術により無焼成のレンガ「スクラッチ」シリーズを開発、敷材、ガーデニング向けなどで現在、好評な売れ行きをみせている。

“焼き物の町の廃棄物”対策がスタート

亀井製陶は、先代の亀井光男社長が茶漬け椀の製造会社として1956年創業。その後無ゆう床タイルの製造をメーンとし、社長も2代目の宏明氏に引き継がれた。

そんな同社が「スクラッチ」を開発するきっかけとなったのが、亀井宏明社長も92年から参加していた笠原町の産業廃棄物対策協議会だ。そこで産業廃棄物である窯業廃土を再利用できないかということになり、それまでも土を掘り、水を使い、焼いて、廃棄物を出す、という業態をどうにかしたいと考えていた亀井社長を先頭に、研究に取り組むことになった。

そこで考えたのが、本業から離れることなく実現可能なレンガへの利用。もちろん、初めは焼いてブロック化することを考えた。しかし「窯業自身の廃棄物だけでなく、下水汚泥や焼却灰など他産業から排出される廃棄物を、より多く同様の手法で処理したい。地球温暖化などを考慮すると、大量の廃棄物を処理するには “焼く"のにも限界があると思った」(亀井宏明社長)。

そこからは試行錯誤の連続だった。焼かずにレンガをつくるという、だれが考えても、特に焼き物の町では常識外れな発想に挑戦し続けた。「ほかのことは長続きしない性格だが、これだけはどうしてもやりたいというこだわりがあった」。

そして97年、伝統的な窯業技術と特殊固化技術をミックスし、焼かずにレンガの風合い、強度を持ち、大量の廃棄物処理、多くの利用先が期待できる無焼成レンガ「スクラッチ」の商品化に成功した。

“リサイクル無焼成レンガ”はこうしてつくる

「スクラッチ」の原料となるのは「下水汚泥焼却灰」、石炭火力発電所から排出される「フライアッシュ」、ガラス原料や窯業用粘土に含まれる珪砂の採掘くずである「微砂キラ」、藻珪石の産出過程で発生する副産物「キラ砂」、土地造成などで発生する山土から砂利や砂を採取した残りかす「キラ粘土」、金属工業廃棄物の「水滓スラグ」や「いもの砂」。

これらをそれぞれ10〜20%ずつ混練し、原土をつくる。単一では存在しないこの原土づくりには、窯業の伝統技術が生かされている。そして、原土100に対し、セメントを20〜25%混練。これらを真空押し出し、プレス形成し、乾燥、養生を経て完成する。

「基本的には伝統技術。いってみればローテクだからこそ、廃棄物を原料としてそのまま使え、低コスト。ファインセラミックなどは原料をファイン化しなければ使えないなど、ハイテクは原料を選ぶからね」

原料の仕入れ先は、岐阜県関市、岐阜市、高山市、名古屋市などの自治体や、中部電力碧南火力発電所、トヨタ自動車などの企業。月約1000tの廃棄物を受け入れている。廃棄物処理資格としては、再生処理に限る県知事認定再生利用個別指定工場を取得。原則的に処理費用をもらってはいけない資格で、同社でも処理費用はとっていない。ただし、産業廃棄物収集運搬許可事業所の資格も取得しており、運搬費はもらっている。

現在の生産量は月産約50万個。総販売元の愛岐アクトロン(岐阜県土岐市)を通じて資材メーカーなどに販売され、歩道や公園の路盤材、園芸やガーデニング用資材として使われている。工場出し価格は1個約50円、店頭価格は運賃の関係で場所によって異なるが、1個90円〜138円ぐらい。

“市場に乗せるための”工夫

「自治体で受け入れてもらえるといった甘い考えではなかなかうまくいかない。やはり商品の原点は、一般ユーザーにアピールできること。価格や仕上がり、安全性、お客さんの要望といった値打ち感が第一。売れてこそ処理の意義がある」というのが亀井社長のリサイクル製品への考え方。そんな思想がこのレンガにはたくさん詰まっている。

まずは安全性。原料は受け入れ段階で重金属の混入など廃棄物埋め立て基準である環境省の13号基準をクリアしたものに限っている。「無機性のものであれば、ほとんど受け入れ可能。だが、廃棄物にコストをかけたくないという業界からの持ち込みは、やはり捨てるものという感覚があるため、不純物が入っていることもある。ただ処理してくれというところとは、お付き合いできない。しっかりコストとしてとらえてくれる企業などの廃棄物を受け入れること、それがまた商品の信用性にもなっている。焼いていないからこそ、安全性には慎重に気を遣いたい」

同様に、完成品も環境省の第46号基準をクリア。これはリサイクル材のみに課せられる安全基準だ。

品質面はどうか。廃棄物の物性はそれぞれ違うので、どういった配合で、どれだけの量を配合してベストの状態にするか。また、廃棄物自体もその時々で微妙に物性が変化するので、一定の廃棄物を大量に原料にすると、その変化によって完成品の仕上がりが変わってくる。それを避けるためにも、さまざまな廃棄物を原料として使っている。

競争力をつけるために、見た目にも気を遣う。焼いていないが、レンガの風合い。そして、焼いていないから、製造コストは焼き物の半分程度。通常のインターロッキングブロック(舗道や敷地の敷材)と価格面でも十分対抗できる。

“マーケティングが”成功の秘訣

「廃棄物の受け入れ量は、今のところいっぱい。ただ、この技術を独り占めする気持ちはない。各地で廃棄物の処理には困っているし、製品の市場規模としても、関東は中部と1ケタ違う。フランチャイズのような形で全国に拠点化できればいい」と亀井社長はいう。

実際、関西電力、関西総合環境センター、近畿コンクリート工業と共同で、無焼成レンガブロックの製造販売会社「共生」(大阪市中央区)も設立。兵庫県姫路市にある関電の社有地を活用してレンガブロック製造工場を建設し、2001年10月から月間50万個(約1000t)の生産を開始している。

現業を生かす。品質・価格・景観性といった製品自体の競争力。また、無焼成、廃棄物を利用しているといった環境配慮の分かりやすいアピールポイント。市場規模の大きいブロックに廃棄物の利用先を求めたことなど。同社が比較的すんなりと環境ビジネスに参入し、好業績を収めているポイントが、環境へのこだわりだけでなく、こうしたマーケティングにもみえてくる。

(平成14年3月号 月刊「地球環境」より)

一覧へ戻る

ページのトップへ